2022年度ワークショップ 「スカイハウス再読」

2024.01.09

教員:
妹島和世(Y-GSA教授)
西沢立衛(Y-GSA教授)
佐藤敬(Y-GSA設計助手)
武井良祐(Y-GSA設計助手)
松田彩加(Y-GSA設計助手)

参加学生:
木幡耀、坂田雄志、髙橋健、谷本かな穂、照井甲人、藤澤太郎、藤本梨沙、前本哲志、皆川しずく、宮本皓章、森史行

展覧会の様子

2022年度より妹島和世氏の指導のもと、名作建築の再読研究を行う活動が始まりました。その取り組みの1年目となる2022年度は、建築家菊竹清訓氏による設計の住宅 〈スカイハウス〉(1958年竣工)の研究を行いました。
今回〈スカイハウス〉を取り上げた理由について、 横浜国立大学名誉教授の妹島氏は、〈スカイハウス〉を訪れたにも関わらず、その空間性をうまく言語化できなかった悔しさから、学生と共に研究を始めたと言います。竣工から60年以上経った現在も、日本を代表する住宅建築として取り上げられる〈スカイハウス〉が、今なお生き続ける建築であることを「スカイハウス再読」を通して発見していくワークショップとなりました。

展覧会の様子

「スカイハウス再読」の目的
「再読」とは、Y-GSAで続けている研究方法のひとつです。過去の名作建築を様々なアプローチで調査、研究を行い、新たに解釈しなおす事で、これから未来において、対象とする建築が、現代においても考えるべき建築的アプローチは何なのか、継承すべきアプローチや空間のあり方を探求する活動でもあります。
今回は”モダニズム””メタボリズム”の文脈で語られる建築家・菊竹清訓氏の〈スカイハウス〉について、氏が生まれ育った土地の環境や原風景を起点とし、建築の空間性および思想についての研究を行いました。
菊竹清訓の過去の文献や図面資料を集め、〈スカイハウス〉を中心に菊竹建築の調査・分析を行い、それら資料をもとにスカイハウスの縮尺1/10の模型を製作するなどを行いました。

ワークショップのプロセス
学生は最初に、構成、構造、モジュール、寸法、ディテール、素材、地形などの周辺の環境、菊竹氏の設計された住宅の変遷、氏の略歴年表等の調査研究を行いました。これらの調査結果をもとに妹島氏と西沢氏による初回のエスキースが行われ、菊竹氏の生まれ故郷や生家、及び当時の時代性の影響がどのように〈スカイハウス〉の構成や構造などに昇華されていったか、それらに焦点を当てていくのが良いのではないか、などの議論が行われました。
また、空間構成やそこに現れる理論の研究を、図面や資料の調査以外にも模型作成を通して行いました。1/50模型にて地形など周辺の情報を入れた模型を作成し、さらにディテールまで詳細に反映させた1/10模型を制作しました。
1/10模型では、ディテール及び、構造を詳細に再現するために、材料の検討が行われました。強固に作る必要があり、かつ屋根の形状がHPシェル状になっているため、緩やかな3次曲面を再現できる、合板を利用した模型製作となりました。1/10模型用に構造から再現したいくつかのモックアップを製作し、中間エスキースを行いました。実際のRCを利用する訳ではないので、合板の木目方向はどの向きが良いか、また小口を隠すための方法や、特徴的な独立柱や基礎の形状、ワッフルスラブとの接続の詳細、模型状出てきて欲しくない接続部の作り方などが議論され、障子の動きまでも再現した可動建具を詳細に作り込んだ模型となりました。
さらに外部に展示する事も考慮し、搬入のための模型の分解方法、運搬のためのサイズ検討も行われました。

エスキースの様子
エスキースの様子
エスキースの様子

〈スカイハウス〉を再読して
戦後の日本住宅を代表する〈スカイハウス〉は、建築家・菊竹清訓氏が弱冠30歳で完成させた自邸です。日本のモダニズム建築を代表し、メタボリズム建築の始まりとも言われる〈スカイハウス〉は、1958年の当時ではまだ珍しい鉄筋コンクリート造の住宅として東京の一角に突如として姿を現しました。本建築は一見して単純な構成でありながらも、そこから立ち上がる空間は優艶で多くの豊かさに富んでいます。完成から64年が経った今も尚、世界中の建築家を魅了し続ける〈スカイハウス〉の魅力はどのようなところにあるのか。「スカイハウス再読」では、本建築をいくつかの視点から改めて読み解いていきました。

作業の様子
作業の様子

「スカイハウス再読」により以下の
「構造」「継承」「記憶」「動くもの」の4つの視点から紐解きました。
「構造」はワッフルスラブや壁 柱,HPシェルとの関係
「継承」は菊竹氏が生まれ 育った民家の間取り
「記憶」は菊竹氏の生まれ育った故郷である久留米の風景
「動くもの」はムーブネットと建具

作業の様子
作業の様子

「構造」
柱のない空間を地面から持ち上げ、外に大きく開く。このような建築のあり方を実現するため、〈スカイハウス〉には様々な構造のアイディアが取り入れられています。
四隅を開いて四辺の中央に立つ4本の壁柱と、それを支える強固な基礎。壁柱に荷重を伝え、動きまわるムーブネットを支えるワッフルスラブ。四隅を開いた方形屋根をかたちづくる HP シェル。菊竹氏の空間のイメージに形を与えたこれらの構造は、〈スカイハウス〉の重要な個性となっています。

「継承」
四間 × 四間の一室、〈スカイハウス〉の中心である、二階の正方形の空間。菊竹氏はこの空間を設計した背景を、生家の「座敷」での風景を振り返りながら語っています。
菊竹氏は「いえの中心には人間があるべきだ」という考えをもとに、暮らし方の変化を柔軟に受け止める一つの空間を生み出しました。伝統的な日本建築、生家を経て「継承」される空間性・機能性は、〈スカイハウス〉に「座敷的なる空間」 をつくりだしています。

「記憶」
大地を開放し、空に浮かぶ。〈スカイハウス〉の個性でもある、 外部環境との関係性。菊竹氏の語る言葉から氏の生い立ちを辿ると、生まれ育った「久留米の原風景」と〈スカイハウス〉の建つ環境に、いくつかの共通点を見出すことができます。
生家のすぐ近くを流れていた雄大な筑後川がもたらす風景や、田畑と共に暮らす地主としての生活、高台から大地を見晴らす眺望。これらの「記憶」から培われた世界観が、〈スカイハウス〉の建ち方に顕れています。

「動くもの」
〈スカイハウス〉での生活を支えるものに、ムーブネットと建具があります。ムーブネットは台所、風呂場、子供部屋といった生活に必要な機能を担い、座敷の周囲について廻ります。建具は座敷の内から外へと空間を層状に仕切り、自由に閉じたり、開いたりすることで、季節や暮らし方、住む人の変化に合わせ、生活空間を調節します。
その時々に応じてモノを用い、ワンルームを変化させる暮らし方は、菊竹氏が幼少期を過ごした久留米の生家での経験とつながります。人間中心の空間を「動くモノ」が支えます。

最終講評の様子
最終講評の様子

展覧会/東京都庭園美術館 正門横スペース
東京都庭園美術館にて、館長の妹島和世氏が企画する「ランドスケープをつくる」シリーズの第2回目で、本ワークショップ「スカイハウス再読」の展示をおこないました。

展覧会の様子
展覧会の様子
展覧会の様子
展覧会の様子

その関連イベントとして座談会「菊竹清訓氏を語る」 が開催され、Y-GSA学生による研究発表、菊竹事務所の所員だった伊東豊雄氏、内藤廣氏による ショートレクチャー、 伊東氏、内藤氏、同じく元所員の富永譲氏、館長の妹島氏によるディスカッションがY-GSAプロフェッサー・アーキテクトの大西麻貴氏の司会で行われました。
内藤氏は菊竹氏が書いた〈スカイハウス〉の説明文に着目されました。災害や公害、人間に対する不信感から社会を構成する最小単位である家族を守る、核のような住戸を目指していたという氏の文章を挙げ、現代にも通じる氏の姿勢に驚き、現代の建築家はこのような提案ができているのかと疑問を投げかけました。
また伊東氏は「システムは論理的に考えるものではなく、これまでの経験を活かした技術と直感の構築である」という菊竹氏の言葉から、技術と氏の思想が合わさった時に生まれる新しいひらめきは身体で考えることで現れたのではないかと振り返りました。

詳細模型
展覧会の様子

Y-GSAのワークショップはスタジオ課題と異なり、実践的で実務的な視点を多岐に渡り検討し、建築における深い問題へより踏み込んだ研究ができる点があります。
実際に建っている建築の構造や詳細、さらにはそこに現れる思想を研究するのと同時に、予算や展示の運営など、建築を取り巻く多様な視点や思考が必要になってきます。資料の掲載許可を得たり、展覧会のための会場とのやりとりなど、スタジオ課題だけでは体験できない領域に踏み込んだ建築の可能性を体験していきます。
また、ワークショップ課題はスタジオ課題と同時並行で進むため、ワークショプでの踏み込んだ建築の問題や発見を自分達なりに解釈し、スタジオ課題と行き来する事で、自身の建築に対する思考を発展させていくことができました。