2024年度ワークショップ「ベルリン州立図書館再読」

2026.03.01

教員:
妹島和世(Y-GSA名誉教授)
西沢立衛(Y-GSA教授)
富永讓(横浜国立大学非常勤講師)
砂越陽介(Y-GSA設計助手)
小田切駿(Y-GSA設計助手)
鈴木菜摘(SANAA)
参加学生:朝妻貴徳、神田柚花、西山陸斗、飯塚友晟、植松駿、加藤凌弥、黒沼和宏、佐藤光、高塚惇矢、高安耕太朗、照井遥仁、盧鉉昇、南茉侑

概要:
ワークショップ期間:2024年4月~2025年3月
現地調査:2024年8月12日~8月15日(ベルリン, ドイツ)
展覧会:2025年2月22日~3月16日(東京南青山|emergence aoyama complex 1F)

模型写真外観(*1 撮影:瀬尾憲司)

Y-GSAでは、2022年度より妹島和世氏の指導のもとに始まった、モダニズム建築の再読研究の取り組みの3年目となる2024年度において、ハンス・シャロウンによる、ドイツ・ベルリンの「ベルリン州立図書館」を再読の対象として研究を行いました。
ベルリン州立図書館を対象とした理由について妹島氏は、
「はじめて訪れた時、これが建築なのかと、どうやって捉えたら良いのかわからなくて、ただうろうろ歩きまわった。どこもかしこも大きくて、建築というより通りでも歩いているような、計画されているようなされていないような、そんな空間であり、しかしその魅力は忘れがたく、どういうことなのか考える機会になればと思って今回の再読対象として選んだ。」
と述べていました。

模型写真内観(*2 撮影:高塚惇矢)

ワークショップのプロセス
今回のワークショップではドイツのベルリンへ渡航し、実際にベルリン州立図書館と、それが建つ「文化広場」一帯について調査しました。事前調査としてベルリン州立図書館の構成、構造、モジュール、寸法、ディテール、素材について図面や写真、文献を調べ、西ベルリンの端部であったティアガルテンと文化地区の成り立ちやベルリンの歴史と都市計画についても研究を行いました。また、それに加えてシャロウンの人物像や生い立ち、時代背景や建築運動などを調査することでより深く読解していきました。

現地では、ベルリン州立図書館のバックスペースまで含めた全体を図書館職員の案内のもとで見学し研究対象である州立図書館の実測等の調査を行うと共に、現地の研究者であるCarsten Krohn氏・Christian Raabe氏にレクチャーしていただき理解を深めました。また図書館と共に一帯の文化広場を成す、同じくシャロウンの設計によるベルリン・フィルハーモニーホールおよびミースの設計による新国立ギャラリーなども併せて見学し、ベルリンの復興都市計画顧問でもあったシャロウンが意図した都市像を探りました。
さらにベルリン州立図書館の改修工事(今後実施予定)を担当している現地の建築設計事務所GMP(Architekten von Gerkan, Marg und Partner)へのヒアリングも行うことで、具体的な建築技術や建築の保存方法についても理解を深めることができました。

ベルリン州立図書館の実測の様子(*3 撮影:砂越陽介)
ベルリン州立図書館を案内していただいている様子(*3)
Carsten Krohn氏・Christian Raabe氏によるレクチャー(*3)
ベルリンフィルハーモニーホールの見学(*3)
「文化広場」にてディスカッション(*3)

渡航前1/200で図書館本体の模型をつくって全体構成を把握しつつ、中央閲覧室については部分的に1/100の模型も作り表現方法も検討しました。
帰国後は現地調査の内容を反映し、より精度の高い1/50にまでスケールを上げた本体模型の作成を始めました。複数の軸線とパートが有機的に重ね合わせられ、また非常な大きさを持った建築であるため、その内観・外観の全体をどのように同時に見せるか、製作や搬出入上どのように分割して作るか、閲覧室の書棚や閲覧台、トップライトなどをどのような模型素材で表現するか、多くの試行錯誤が行われました。都市のように巨大かつ立体的な全体と、多種多様な活動を許容する人の居場所となる部分とが一体となっている、シャロウンの建築の思想を身体的に理解していくような検討過程となりました。
また、現地で得た知見をもとに改めて調査分析を行い、以下のようにまとめました。

エスキースの様子(*3)
エスキースの様子(*3)
エスキースの様子(*3)
作業の様子

都市と人間
ドイツを代表とする近代建築家の一人であるハンス・シャロウンは、経済的な合理性による機能主義が時代に選ばれつつある中、人間にとって本質的な居場所とは何かを考え続けた建築家です。また、第二次世界大戦下において多くの文化人がベルリンを離れる一方、シャロウンは留まり続け、ベルリンという都市の在り方を戦後の復興計画に携わりながら考え続けた都市計画家でもあります。〈ベルリン州立図書館〉は、彼のそうした人間の居場所と都市の在り方に関する深い思想の到達点ともいえる建築です。
我々は、この建築の再読を通して、人間と建築、そして都市というスケールの異なるものを統合しようとするシャロウンの思想を見出しました。初期の象徴的なシルエットを持つ建築のスケッチ群は、表現主義という単なるカテゴライズを超えて、バロック都市における広場/通り/街並みが一体となった経験を生みだす都市のような建築へと繋がっていきます。度々用いられる彫刻的な造形は、建築をかたちづくる構造体や設備を納める部材であると同時に、緩やかなまとまりをつくり、多種多様な活動を許容する人の居場所を生みます。
このように、経済的合理性や効率性を超えた、人間にとって本質的な居場所/都市とは何かということを、建築を通して追求し、「都市と人間」の統合は成されました。

都市景観
シャロウンの「都市景観」とは技術的、経済的や社会的結びつきが表現された建築の形です。バロック時代の建築家自然と人口物が調和した中世都市の秩序を見出しました。シャロウンは中世からバロック時代にかけて発展した都市をもとに、社会や文化、あるいは自然に対して階層を与え相互に結びつけることで組織化が可能であるとします。中世やバロック時代の建築に見られるシルエットは都市を歩く人々に空間体験をもたらします。
プラハ
シャロウンはヴルタヴァ川の左右に発展し、丘陵の河川景観に溶け込んだチェコ共和国の首都プラハを賞賛しています。プラハは特徴的な地形形状をもとに中世からバロック時代にかけて発展した都市であり、自然条件と建築物が相互に浸透しています。塔は密集している建物の上部から顔を出すように現れ、周囲の建物に溶け込みながらも街路を歩く人々に高さの感覚を生み出します。地形や道幅の変化によって、街路歩きながら感じる高さに抑揚が生まれ、歩行体験を生み出している。また街路樹は開放的な庭、スロープ、テラス、階段に関連して設置され、相互にスケールを拡大するといった異なるスケールのエレメントの相互浸透を評価しています。
Kulturforum|文化広場
当時ベルリンは東西に分けられ、戦前の文化施設は東ベルリンにある旧市街地に残っており、西ベルリンは東ベルリンとの境界近くに新たな文化施設を収容する「Kulturforum(文化広場)」を建設しました。図書館のコンペが行われた1964年時点では、ベルリンフィルハーモニーはすでに建設されており、ミースが設計した新国立美術館は着工直前でした。そのため、コンペではベルリンフィルハーモニーと新国立美術館の存在を踏まえた計画を行っていました。
シャロウンは州立図書館の東西に分かれる閲覧室と閉架書庫の構成が、ベルリンフィルハーモニーや新国立美術館とともに「谷」を形成すると述べました。西側の閲覧室は、ベルリン中心部に広がる公園・ティアガルテンへ向かって低くなります。一方で東側の閉架書庫は積層され、高速道路の粉塵や騒音を遮蔽します。州立図書館の向かいに建つゲストハウスはポツダム通りからティアガルテンに向かって上昇するように計画されましたが実現しませんでした。
全体構成と構造
南北に長く伸びた図書館は、中央に受付カウンターやトイレなど図書館機能が集中したコアゾーンがあり、動線空間によって囲われ、西側には閲覧室、東側にはオフィススペースがあります。動線空間は南北に位置する2つの階段で相互に接続されており、閲覧室へとつながっています。図書館では約540万冊管理されており、多数の新規蔵書に加えて、古い所蔵品、コレクションが所蔵され、書籍の貸し出しはコアゾーンのコンベアシステムによって上部、地下の閉架書庫から受付カウンターへと運び出されます。
大空間は3つのグリッドとその結節点の階段コアによって、階段コアは基礎から伸びており、地下から高さ約20mの鋼構造物としての門型フレームが最大3階分の吹き抜け空間を実現しています。またこの大空間を支える柱は、ナショナルギャラリーと呼応した十字柱が使用されています。閲覧室と閉架書庫が異なる構造形式で互いに支えあっています。

研究成果の発表(*3)
研究成果の発表(*3)
1/50模型全体の俯瞰写真

展覧会/emergence aoyama complex 1F
南青山の貸しギャラリー emergence aoyama complex 1Fにて、本ワークショップ「ベルリン州立図書館再読/都市と人間」の展示を行いました。展示では1/50の大きさで再現したベルリン州立図書館の模型を中心に、縮尺1/1500 の文化地区模型、縮尺1/200 の平面図などを通し、人間の本質に基づいた「機能」を追求し、人間と建築、そして都市というスケールの異なるものを統合しようとするシャロウンの思想を紹介しました。

展示ポスター
展示風景(*2)
展示風景(*2)
展示風景(*2)
展示風景(*1)

それに合わせて本学の教員に加え、Carsten Krohn氏とオンラインで繋いでシンポジウムを行いました。学生による研究発表に続いて、Krohn氏からは「The Politics of the Staatsbibliothek」というタイトルの基調講演があり、Stattlandschaft(都市のランドスケープ)という興味深い概念について議論がより深まりました。

シンポジウムの様子(*4 撮影:小田切駿)

3回目となるモダニズム建築の再読研究でシャロウンを取り上げたことで、都市から建築、そして物資まで横断した視点での建築研究を行うことができました。また、いわゆる歴史の本流となったミースの「機能主義」の対極としてあまり表に出てこなかった、シャロウンらの「もう一つの機能主義」;より人間と、その生態系としての都市に根ざした建築思想の流れを明らかにすることができたと考えます。