2019年度国際ワークショップ 横浜国立大学大学院Y-GSA×ベルリン工科大学(TU Berlin) “Architecture of Social Transformation
【テーマ】Architecture of Social Transformation / 建築・都市における集合形式や共有空間の社会的変容
【参加大学】横浜国立大学大学院Y-GSA×ベルリン工科大学(TU Berlin)
【教員】
Rainer Hehl(ベルリン工科大学准教授)
寺田 真理子(Y-GSA准教授)
南 俊允(Y-GSA設計助手)
連 勇太郎(横浜国立大学研究員)
【参加学生・他アシスタント】
Y-GSA:池谷浩樹、上原佳広、小林直行、草原直樹、栗田幸乃助、張天成、長尾珠月、古庄百合香、松永理沙、室岡有紀子
ベルリン工科大学:Marta Fernandez 、Guardado、Özdemir Onur、学生11名、協力:Carolina Mojto
【期間】8月23日~30日:東京・横浜ワークショップ
Theme: “Architecture of Social Transformation”(Theory)
9月11日~20日:ドイツ・ベルリンワークショップ
Theme: “SUPERBLOCK-From the Berlin Block to Diversified Neighborhoods” (Practice)
【場所】東京・横浜:8月23日~30日
ベルリン :9月11日~20日
2019年度のY-GSAとベルリン工科大学の共同ワークショップのテーマは、2018年度に続き”Architecture of Social Transformation。対象の場所は、ドイツの首都、旧東ベルリンである。2016年度・国際ワークショップにおいても、ドイツのベルリンにおけるコーポラティブハウスを対象とし、ベルリンブロックの研究と合わせて行った。※ベルリンブロックについてなどは、2016年度ワークショップレポートを参照。
今回のワークショップでも、ベルリンの建築タイポロジーである、”Berlin Block”という囲まれた街区に着目し、社会課題に対応した集合住宅の新しい居住空間モデルを提示すると同時に、これからのBerlin Blockについて考える。
ベルリンはここ最近不動産価格が急騰しているとともに、多くの移民がドイツに流入し、住宅不足が社会的な大きな課題となっている。東ベルリンのエリアでは、「ジェントリフィケーション」が起こりつつあるため、それをいかに食い止めるか。そしていかに住宅不足を解消していくか、建築の高密度化が、課題解決のための大きなテーマとなっている。
さらに、ドイツでは、昨今、RC造から木造建築への取り組みが検討されている。可塑性の高い上、経済的でもあるという理由から木造建築が注目され、サステイナブルな建築・都市のデザインが求められている。このようなドイツの社会的課題に対して、環境的にもエコロジカルであり、地域社会においてコミュニティを育みやすいという特徴をもつ日本の長屋形式の住宅は、ベルリンの次世代の居住環境を考える上で、とても良い参考事例である。
そういった視点から、9月に実施するベルリンでのワークショップの前に、8月末に開催する横浜・東京でのワークショップを今回の第一弾として企画し、日本の木造住宅・建築を住まい方から構造まで学ぶ。ワークショップでは、専門家のレクチャーを聴いた上で、対象事例の建築を見学していくことを基本としている。東京では、長い歴史をもつ月島・佃の木造密集市街地における長屋を、芝浦工業大学の志村秀明教授のご協力のもと見学をおこなった。
■フロー
workshop 1:東京・横浜
研究の準備および調査
-1.東京・横浜に存在する様々な住宅建築や木造密集市街地を実際に見学・調査
-2. 東京・横浜でもこれらの経験をもとに、 今回のワークショップの対象敷地であるベルリンの Freiraum in der Boxにおいて5つに分けたエリアに対して、前述した5つのキーワードを使って、新しい高密度な居住モデルの方向性を、模型をつくりながら提案
workshop 2:ベルリン
ベルリンブロック・対象敷地において、具体的各チームで設計を行った
-1. ベルリンブロック、敷地についての調査
-2. ベルリンにおけるコーポラティブハウスの事例等見学
-3. 設計提案検討
ワークショップ1(東京・横浜編):日本の木造住宅・地域から考える、ベルリンの木造集合住宅
8 月 23 日から始まった横浜・東京での第一段階 のワークショップでは、特に日本の建築家が現代の社会や都市における新たな住まい方を提案する木造住宅や集合住宅から具体的に学ぼうと、 まずは Y-GSAの側から日本の住宅における住まい方からみえてくる5つのテーマを丁寧に精査・分類し、ワークショップの重要なキーワードを提案した。
■5つのキーワード
1.Grouping プログラムを共有する
2.Overlapping 複雑性を生み出す
3.Stacking 親密性を生む
4.Voiding 垂直性をつくる
5.Spacing 中間領域をつくる
横浜でのワークショップでは、東京・横浜に存在する様々な住宅建築や木造密集市街地を実際に見学・調査することで、日本の高密度な居住環境のあり方や特徴を捉えることができた。
東京・横浜でもこれらの経験をもとに、今回のワークショップの対象敷地であるベルリンのFreiraum in der Boxにおいて 5つに分けたエリアに対して、前述した5つのキーワードを使って、新しい高密度な居住モデルの方向性を、模型をつくりながら提案。そしてこれらの提案 は、9 月 11 日にスタートしたベルリンでのワークショップにおいて、実際に現場を見学しながら具体化されていった。
ワークショップ2(ベルリン編):
ベルリンのワークショップでの学生たちの最終提案は、FREIRAUM in der Boxギャラリーの協力のもと、展覧会という形で一般公開された。建築、都市計画においては様々な厳しい規制があるなかで、ベルリン・ブロックの内側の新たな居住モデルを木造で設計することで、未来を見据えた新しいベルリン・ブロックのあり方を提示することを試みた。
対称敷地:旧東ベルリンに位置するBoxhagener Strasse
未だ東ドイツの雰囲気を醸し出す、旧東ベルリンに位置するこのエリアは、昨今、様々な地域において建築が変容していくプロセスが見られるようだ。今回のワークショップの対象敷地となる、このベルリン・ブロックの中の子供の遊び場(playground)に面したT字の建物。ここには、居住空間他、劇場、音楽学校が入っており、そこに最近新しいインターネット系の会社が入り、新しい経済を生み出している(家賃はここに住む人たちの10倍)。また、このT字のビルの周辺には、低層の製造業の建物(工場)、この建物では、Spaces of Commoningも十分に起きている。T字の片方の手と足の部分の防火壁(firewall)やフラットな屋上において、様々な活動を住人たちが共有する場としてのSpaces of commoningが起こり得る新しい居住空間モデルを考えることが今回の課題である。集合住宅の持続可能性につながるような、新たなプログラムとそれに対応した空間のデザインが大きな鍵であり、Berlin Blockの新しいモデルの提示を試みた。
■5つの提案
1.Team:Grouping Site:Entrance ”Approaching Oku”
2.Team:Overlapping Site:Playground ”Overlap House”
3.Team:Stacking Site:Wall ”Creating Intimacy”
4.Team:Voiding Site:Organic ”Vertical Voiding”
5.Team:Spacing Site:Forest ”Steps in the Woods”
■まとめ
このように都市における小さな粒 (Grain) としての高密度な集住形態による新しい住まい方を提示する日本のアプローチが、近い将来、ベルリンの新しい都市居住の未来の創造に少しでも寄与していくことを期待したい。
南 俊允 (横浜国立大学Y-GSA設計助手)
Toshimitsu Mianami
Photo,text:Toshimitsu Minami,Y-GSA