2018年度、香港大学とベルリン工科大学との国際ワークショップ 「建築・都市における集合形式や共有空間の社会的変容」

2019.10.04

【テーマ】Architecture of Social Transformation / 建築・都市における集合形式や共有空間の社会的変容
【参加校】Y-GSA:寺田真理子(准教授)、連勇太郎(研究員)、原田雄次(設計助手)
       学生―若色りな、伊神空、久米雄志、陳李斌、津田加奈子、福留愛、大谷芳之
    香港大学:Juan Du (ジュアン・ドゥ)准教授、助手2名、学生12名
    ベルリン工科大学:Rainer Hehl (ライナー・ヘール)准教授、学生4名
【期間】9月7日~14日:深圳・香港ワークショップ
   9月15日~18日:客家土楼視察調査
【場所】香港:9月7,13,14日
   深圳:9月8日~12日
   福建省:9月15日~18日

■深圳・香港ワークショップ編 (9月7日~14日)
 Y-GSA、香港大学、ベルリン工科大学の3校によるインターナショナルワークショップ。今年は「建築・都市における集合形式や共有空間の社会的変容」をテーマに、香港大学のジュアン・ドゥ先生が長年研究されている「アーバンビレッジ」を対象敷地としたリサーチワークショップを行った。アーバンビレッジは急速に発展する中国本土の高層化された都市部に取り残された中低層高密な居住区である。文字通り「都市の中の村」である。今回は香港の対岸に位置する中国本土の経済都市、深圳にあるアーバンビレッジのひとつ「平山(ピンシャン)ビレッジ」を敷地として3大学共同でリサーチすることになった。

 まず9月7日に香港大学でキックオフミーティングが行われた。はじめに各大学の都市における特異な集合形式や共有空間に関する研究のプレゼンテーション。寺田准教授による横浜戸部地区における木造密集住宅地のリサーチと提案、ライナー先生によるブラジル、リオデジャネイロのファベーラに関するリサーチ、そしてジュアン先生による深圳、アーバンビレッジに関するリサーチ。異なる3都市における、異なるコンテクストから生まれた、異なる集合形式や共有空間のあり方を学ぶ。

 翌日から深圳に向かい、敷地のピンシャン・ビレッジを含めたいくつかのアーバンビレッジを視察。一口にアーバンビレッジと言ってもその規模や密度、構成人口もさまざまであり、周辺を含めたその地域のコンテクストによって独自の都市の共有空間の変容を遂げている。例えばピンシャン・ビレッジは大学街に位置することもあり、夜遅くまで通りの屋台は若者で賑わっているし、絵画の贋作村として有名なダフェン・ビレッジは街ぐるみで通りのいたるところで油絵制作やキャンバス制作が行われていた。こうした特色あるアーバンビレッジでは都市や建築における共有空間のアクティブな使われ方を随所に発見することができる。学生はピンシャン・ビレッジの全体像を共同でリサーチするアナリシスパートと、個々で興味がある部分を発見してリサーチするインディビデュアルパートの2つのリサーチのを念頭に置きながらアーバンビレッジをつぶさに見て回った。土地の歴史や社会的変化を調べる者、地形の変化を調べる者、住民にインタビューする者。5日後の発表に向けてそれぞれの手法で都市を観察する。
 

9月14日、深圳から香港大学に戻りリサーチの最終発表会。最終的に3つのテーマ―A)ビレッジ内の運営組織について、B)ビレッジでの日常生活について、C)ビレッジの建築的特徴について―に大きく分類し、その中でさらに興味が共通する者同士グループを作り、最終的に8つのグループに分かれて発表することになった。日本、香港、ドイツ、それぞれの国の興味と表現方法の差異が如実に表れた講評会となった。

グループA-ビレッジ内の運営組織のテーマは香港大学のグループが多く、言語的アドバンテージを活かした時系列的な変化や土地オーナーへのインタビューなどが興味深く、理論的なグラフやダイアグラムを用い、アーバンビレッジの都市構造に迫るとともに今後の変容の行く末を想起させるような内容であった。

グループB-ビレッジでの日常生活をテーマで印象的だったのはベルリン工科大のグループであった。映像を用いたプレゼンテーションで、ビレッジ内の共有空間が同時多発的にどう活用されているかを鮮やかに示していた。YouTubeやQRコードを用いたアーティスティックなプレゼンテーション手法はY-GSAの学生にとっても大いに刺激的であったと思う。

グループC-ビレッジの建築的特徴のテーマでは主にY-GSAの学生によるもので、敷地内の共有空間の小さな階段やスロープといった微地形が生活にもたらす関係性を写真とセクションのコラージュで表現したり、建物の隙間を図として取り出して3次元表現したりとY-GSAらしい都市の共有空間への着目とその表現方法が印象的であった。香港大学のジュアン先生も特にその隙間に対する表現方法については新しいアーバンビレッジの視点だと賞賛していた。

最終的に優秀作品として選出された福留・久米チームはWSの時のアイデアをブラッシュアップさせたドローイングと模型をひっさげて香港大学での最終講評のプレゼンテーションに臨み、講評を博した。

 それぞれの校風やテーマによって3校3様のアーバンビレッジの共有空間の在り方や変容が示されており、先生方からのコメントも白熱したものとなった。また今回は対象敷地を深圳のアーバンビレッジを対象としたが、今後は互いの研究対象―横浜の木造密集地やブラジルのファベーラ―を建築・都市の集合形式や共有空間というテーマで相互に比較・研究することへ向けての将来性を感じさせるワークショップとなった。

■客家土楼視察旅行編 (9月15日~18日)
 香港大学で客家を含めた中国の集落研究を行っているRUF(ルーラル・アーバン・フレームワーク)の研究室の協力のもと、福建省に点在する客家の視察調査へと赴いた。

 客家と言えばドーナツ型の土楼が有名であるが、この形式の建物は福建省内の都市部、農村部に様々な形態、状態で点在している。例えば文化財・観光資源として極力オリジナルの状態で保存されているもの、あるいは街中で現在も増改築を重ねて集合住宅として活用されているものもある。

客家調査では先のアーバンビレッジのような激動の都市開発の中での建築の変容とは違った、地域の時間の中での建築の変容のあり方を学んだ。客家はもともと大家族で1棟丸ごと所有する形態をとっていたが、社会構造の変化とともにその形態を維持するのは難しくなってきた。そこで客家の建物そのものも、そうした変化に合わせて変容を遂げている。例えば核家族のプライバシーを確保するために既存の外周に新館を増築したり、電気や水道といったインフラも現代的に整備されてきている。そうした既存と新館の間のスペースに住民の新たな共有スペースが生まれ、歴史と現代をつなぐ生きた空間となっている。こうした特異な集合の形式が時代に合わせて変容し、さらにその変容の境界に豊かな共用部を有しているという現象は、まさに我々がインデペンデントスタジオで研究しているSOC (Space of Commoning) であり、そうした生きた事例をいくつか体験することができたという点でも今回の客家調査の実りは大きかった。

■まとめ
今回は中国の都市と地方という2つの異なるコンテクストにおける集合形式や共有空間の変容を体験することができた。それらは現在の成熟した日本社会ではなかなか味わうことのできないこの時代の中国大陸特有のパワーやエネルギーがそのまま街の共有空間にあふれ出てきたようなライブ感である。そのライブ感が日本、香港、ドイツという3つの異なるフィルターによってうまく炙り出されていたのではないか。Y-GSAの学生にとっては、この異国における躍動感あふれる体験を今後の自身のプロジェクトに活用させ、日本らしい現代的で新しい集合形式や共有空間の在り方を発明することを願っている。また香港とベルリンという異文化ながら共同の研究テーマを有しているという貴重なネットワークを築けたことが、来年以降の共同ワークショップへの展開へと繋がる今回のワークショップの大きな収穫のひとつだっただろう。