2015年度・国際ワークショップ「ファヴェーラに見るSpace of Commoning」による提案を公開しました

2017.03.27

Group1 Education 「教育」

Member
[Y-GSA]梯朔太郎 植田有紗 中田寛人
[PUC Rio]Mariana SANTOS,Mateus FREINKEL,Stefanie COSTA

Concept
今はファヴェーラの住人のほぼ全員がスマートフォンを使う時代であり、情報へのアクセスは必ずしも問題とはならない。しかし、その情報の共有をどのように行うかという事が、町や集団組織の運営にとって非常に重要となってきており、それがむしろファヴェーラにとっての課題となっている。独自の自治組織によって運営されているファヴェーラVidigalでは、寄付された本を集めて屋外図書館を作っている事例もあり、とても興味深い。
現在、このアイデアの成功がインスピレーションとなり、Vidigalの組合組織は、ファヴェーラの玄関口となる広場に共有空間としての図書館を整備することを検討している。図書館を通じた情報の展示や分配は、教育的なプロセスとしてだけではなく、町のアイデンティティを示すものとして捉えられているのである。
知識の共有や分配を空間と共にデザインすることは、単に展示の方法やデバイスを開発する以上の意味がある。機能やシンボルという側面において、教育的空間は内部のコミュニティ形成以上に、外の世界への繋がりもつくりだす可能性を秘めているのである。

Proposal
Vidigalの玄関として重要な生活拠点となっているエントランス広場を敷地とし、キオスク、住民、タクシーターミナル、観光客など様々な人と拠点をつなぐ結節点としてのポテンシャルを活かした、情報の集積地であり発信元ともなりうるような新しいプラザを提案する。教育のインフラや情報のプラットフォームとなり、住民自らの手によって更新され続けるような情報共有と空間のシステムの構築を目指す。

Group2 Warter Infrastructure 「水のインフラ」

Member
[Y-GSA]杉浦岳 瀬島蒼
[PUC Rio]Michel Zalis

Concept
カリオカ(リオっ子)たちの生活において、水不足は日常的な現象である。現在、水不足は以前より頻発するようになってきており、深刻である。さらにリオに水を供給してきた大きな水源が枯渇し始めているため、都心部でも水不足が起きている。不十分なインフラ設備によって、貧困層の住む街ほど水不足の影響を受けやすくなっている。リオ・デ・ジャネイロでは、社会階層の位置づけによって、水へのアクセスが制限、保障されている。
大雨によって都市が正常に機能しないこともある熱帯性気候のこの土地において、水不足が問題となるのは非常に逆説的な事のように思われる。ローカルなインフラのデザインは、公共ネットワークの改善以上に、自然資源の価値に対する意識を高め、空間を活性化する力があるのかもしれない。

Proposal
対象敷地は、Vidigal の中腹に位置する一本の坂道である。背後に崖のそびえ立つ、急な勾配をもつその道は、ゴミの投棄場所であり、崖から流れ込む雨水の溜まり場であり、バイクが猛スピードですり抜ける交通量の多い通りである。水と人々の活動を軸に、敷地を形態や機能的側面からゾーン分けして1つのコモンエリアをつくり、水のインフラを中心とした人々の居場所やコミュニティを住民自らがつくりあげていく仕組みを考える。

Group3 Housing「居住」

Member
[Y-GSA]白鳥恵理 野村郁人 沼田優花
[PUC Rio]Ana Clara Pallegrino,Juliana Motta Biancardine,Joana Martins

Concept
ファヴェーラの密集した状態は、大変魅力的だが、通風や採光の乏しい空間に暮らす居住者にとっては諸問題を引き起こす原因となっている。ファヴェーラの空間は個々の居住者の個別のニーズにあわせて、個性のある効率性の高い空間となっている。残された路地は狭く、地域のために機能する共有空間はほとんどない。
コミュニティの場として、より多くの光や空気を取り入れるためのヴォイドを挿入するには、街をどのように改良したらよいのだろうか?共有空間をつくり、交換と交流を促すために、既存の空間を再構成するにはどうしたらよいのだろうか?そもそも共有空間は、彼らの生活において本当に必要なのだろうか?ファヴェーラ内の既存の住宅に手を加えることは、ロジスティクスと社会的組織の観点において、同じ問いがつきつけられることとなる。すでにある特長を維持しつつ、共有空間を付加していくにはファヴェーラの住居をどのように再生したらよいのだろうか?居住のあり方を正面から捉え直していく。

Proposal
ファヴェーラでの暮らしは、一つの住居内で完結しているのではなく、急な坂道、光、風など、外部環境をふくめた大きなまとまりの中で成り立っている。敷地は、Vidigalの中でも海風が入り、裏手に熱のたまりとしての谷をもつ低密度な一角を選定した。今後人口の増加に伴い無秩序に建設され高密度となることが予想されるVidigalで、住宅供給を可能としながらも、環境をつくりだすことで人々の関係性が築かれていくような、これからの住まいをスタディする。

2015年度サマーワークショップを終えて

ファヴェーラは、生活に困窮する人々が作り上げた不法占拠地域であった。人々は当初、それぞれ丘の上に住まいをつくらねばならない個人的な理由があったが、丘という地形を共有していることで、互いに関係をもたない者同士が、はからずともひとつの大きなまとまりの中に属することになった。犯罪が蔓延し、水不足に悩み、建物の老朽化や教育の問題など、一つの丘で起こる出来事は、もはや他人ごとでは済まされなくなった。この丘での生活を維持するために、住人たちはイニシアティブをとり、ハードとソフト面で持続可能なシステムをつくる必要がある。

Space of Commoningは、それらを構築していく上での手がかりになる。子供たちがサッカーをする路地、人々が休憩する坂の途中。このようなそこに住む人達のアクティビティの空間、Space of Commoningは新しくつくられるものではなく、彼等によって自発的に発見されるものである。人々の生活に根付いている慣習や文化の中に既に存在しているその当たり前の状況、空間を、再発見し、再構築することが求められているのではないか。その場所で暮らす人々のあいだで、それらの当たり前が共有され、はっきりと認識されることで、Space of Commoningは初めて空間としてあらわれてくるのである。

(修士2年:白鳥恵理)